マイスターのQ&A

2015年11月2日 ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

Q:割れた松ヤニを接着したいのですが、どうしたらよいですか?

A: 落として割れてしまった松ヤニを接着することは可能です。ただ、その松ヤニがすでに10年使っているとか、かなり古い場合には、この機会に買い換えることをお勧めします。
 まだそれほど使っていないのに割れてしまった場合には、次の2つの方法で接着して元のように使うこともできます。事実、私の工房ではそのようにして使っています。

 

アルコールで接着する方法

 最初に紹介する方法は、アルコールで割れた断面を軽く溶かして、接着する方法です。この接着方法は、松ヤニがきれいに割れて、押さえると割れた断面が密着するような場合に効果的です。
 接着の方法としては、アルコールを一滴だけ割れ断面に垂らします。そうしてから割れた面同士を密着させて固定して、乾くのを待つのです。
 この接着方法の良い点は、松ヤニを変質、変形させてしまわないことです。ほぼ完璧に元の状態に戻すことができます。しかし欠点としては、乾くまで時間がかかることと、割れが複雑で割れ断面が密着されないようなときには、うまく接着させることができないことです。

 

熱で表面を溶かす方法

 松ヤニが複雑に割れてしまったり、粉々に割れてしまった場合には、断面を密着させることは不可能です。せいぜい、割れた破片を寄せ集めるのが精一杯です。このような場合には、熱で松ヤニの表面を溶かして、その溶けた松ヤニを割れ断面に流れ込まして、割れを接着します。
 松ヤニの表面を溶かすために、私は「ヒートガン」という熱風機を使用します。この機械は家庭用ドライヤーの強力タイプで、高熱が出る割に風量が少ないのが特徴です。このヒートガンで、割れた松ヤニをちょっとあぶるだけで表面が溶けて、割れた破片同士が接着されます。
 この接着方法の良い点は、複雑に、粉々に割れた松ヤニでも一瞬でくっ着いてしまうことです。下記写真ではかなり粉々に割れてしまった松ヤニを寄せ集めて接着したものです。欠点としては、あまり熱をかけ過ぎると、松ヤニの成分が変質してしまうことです。従って熱はできる限り短い時間だけかけるべきです。

業務用ヒートガン

 

右は熱で接着した松ヤニで、左はアルコールで接着した松ヤニ。

 

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