マイスターのQ&A

ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

:松ヤニについて教えてください

:松ヤニの件ですが、これは私自身が詳しい研究をしたわけではないので、あまりはっきりとしたことは言えません。従いましてここでは、現時点での、私の松ヤニに対する感想を書きたいと思います。これまでの経験と少ない実験をもとに、結論から申しますと、「松ヤニある意味では単純、そして反面奥深さもある」というものです。

松ヤニの主成分
 松ヤニの主成分は、松の単純な樹脂に柔軟剤(酸化しない油。例えばひまし油など)を加えただけの原始的なものです。ポイントは、この樹脂の質と柔軟剤の量です。たったこれだけの単純なものなのです。
樹脂(樹液)
 これは松から採れるネバネバした樹液を固めたものです。基本的にはこの松樹脂だけでも十分な働きをします。しかし、これだけだとどうしても粉々に砕けてしまうのです。製品としてはもろすぎます。
柔軟剤
 松樹脂のもろさを無くすためには、松樹脂に柔軟剤を若干加えればよいのです。これには樹脂になじみやすい油類が使用されるのですが、その中でも酸化しないものが使われます。ひまし油などが一般的と思われます。
 この柔軟剤の量によって松ヤニの性能(感じ方)は大きく異なります。柔軟剤を多めに入れると、松ヤニに粘りけがでて一見良い感じになるのですが、夏期に松ヤニが融けてしまったり、またはホコリなどが付着しやすくなります。一方、少なすぎるとカサカサした感じになり、松ヤニも砕けやすくなってしまいます。


最高の松ヤニとは?
 もしも「最高の松ヤニ」が存在するものならば、それは「最高の樹脂」に「最適な柔軟剤の量」ということになります。しかし、松から採取される天然樹脂は非常に複雑な成分で、単純にその性能を考えることはできません。またたとえその成分と性能の関係が解明できたとしても、天然樹木からそのような理想的な樹液が都合よく採取できるものではありません。従いまして、天然樹脂を使用する場合には、その性能(特徴)差にある程度の幅を持って考えなければならないのです。この時点からして、製品としての松ヤニに、すでにキャラクター差が生じているわけです。
 また、柔軟剤の量も、樹脂によって微妙に効果が違いますし、また演奏者の好み、使用楽器、気候などによっても違ってきます。
 このような理由から、「最高の樹脂+最適な柔軟剤の量」というものが存在しないということは分かっていただけると思います。
 以前に、安い松ヤニを自分で溶かしてひまし油を入れて調合して、「これは最高級の松ヤニ」と言って試奏させてみると、多くの方がその性能に納得しました。また、安物(300円ほどのもので、日本では珍しいタイプ)の私の松ヤニを使った人も、特にその性能が悪いとは言いませんでした。要するに、素直な気持ちを持って、気に入った松ヤニであれば何でもよいのです。値段と性能とは単純には比例しません。

自分にとって、良い松ヤニ(選び方)
 松ヤニの性能差は、気候によっても、楽器の発音特性によっても、または弓毛の状態によっても異なって感じられます。そしてもう一つ重要な要素があるのです。
 松ヤニを長く使っていると、次第に柔軟剤が蒸発してしまいます(もろくなります)。これは古い松ヤニが砕けやすくなる事からも分かっていただけると思います。このような状態の時、他の新しい松ヤニを試したときに、「そっちの方が良い松ヤニ」と思ってしまうこともよくあるのです。すなわち、製品差よりも、製品の劣化による性能差だったりするわけです。
松ヤニを選ぶコツをいくつか書いてみましょう。
 ・松ヤニの新品な状態で試奏する。
 ・弓の毛、楽器の状態が悪い場合には、「松ヤニ」以前の問題です。
 ・値段に対して偏見を持たない。
「良い松ヤニ」とは、自分がよいと思った松ヤニなのです。

松ヤニの量
 最後に一つ付け加えておきます。それは松ヤニの付ける量です。
 時々、松ヤニの具合が良くないと言って、首を傾げながら松ヤニをゴシゴシと擦り付けている人がいます。しかしこれは逆効果なのです。というのは、松ヤニを付け過ぎると、弦と弓毛の間に松ヤニの粒が入ってしまい、摩擦抵抗を減らしてしまうのです。これでは弦の吸い付きが落ちてしまいます。このように松ヤニを付けすぎている場合には、楽器は雪が降ったように真っ白になっていますので、そのようになる傾向がある人は注意が必要です。
 もしも松ヤニの具合が今一つと思った方は、松ヤニを付けるのを減らしてみてはいかがでしょうか?

松ヤニの落とし方
 弓に松ヤニが多く付きすぎているので落としたい場合に、弓毛を布で拭っている人を見かけますが、これはよくないことです。なぜならば松ヤニは布で擦ったくらいで簡単に取れるものではありませんし、またそれ以上に布で毛を擦るという事による悪影響の方が大きいからです。既に松ヤニのついた毛は摩擦抵抗が大きいので、布で擦ると毛を引っ張ってしまい毛のバランスを崩してしまいます。また布に付いている汚れ、繊維を付着させてしまうからです。

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