マイスターのQ&A

ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

Q:弓の毛がパンパンに張って緩まなくなってしまいます。

A:この原因には2つの可能性があります。

フロッシュ自体が引っ掛かっている場合
 第一に疑うべき事は、フロッシュが引っ掛かってしまっていることです。演奏中には手からからりの量の汗が出て、その汗とゴミ、松ヤニ、布の繊維などが混じり合ってフロッシュと弓竿との隙間に流れ込んでしまいます。そしてそのゴミが堆積してしまい、フロッシュの動きが鈍くなってしまうのです。酷い場合には、演奏後に弓ネジをいくら緩めても、フロッシュが引っ掛かってしまい前にずれません。すなわち、毛が緩まないのです。演奏者はネジを緩めているのに、一向に毛が緩まないので、フロッシュの雌ネジがバカになってしまったと勘違いすることもあります。
 このような症状を確認する方法は、フロッシュと巻き革との距離を見ることです。もしもネジを緩めてもこの距離が減らないのでしたら、フロッシュが引っ掛かっている可能性が高いです。この様な場合、弓ネジを押し気味に回してあげると、フロッシュの引っかかりは防げるはずです。
 堆積したゴミの量があまりにも酷い場合には、一旦フロッシュを弓竿から丁寧に外して、弓竿の方の汚れを湿ったティッシュで擦り取ってください(決して有機溶剤を用いないでください)。こうすることで、フロッシュの引っかかりはずいぶんと押さえられるはずです。但し、フロッシュを余りにも頻繁に弓竿から外すと、毛を引っかけて毛のバランスを崩したり、また、毛を固定しているクサビが緩みやすくなるなどの弊害もありますので、このような作業は程々にしてください。なお、フロッシュ側の汚れは、そう簡単に取れるものではありませんので、これは毛替え作業の時に、ついでに綺麗に掃除してもらうと良いでしょう。自分で無理に掃除しようとすると、フロッシュを壊してしまうからです。フロッシュのこの部分はとても薄く、繊細にできているからです。
乾燥によるもの
 もう一つ考えられるのは、乾燥による毛の張りです。特に冬には空調によって練習室やホールの空気が極度に乾燥します。従って、冬期の演奏後に弓の毛が全く緩まなくなるということは頻繁に起こります。この様な場合、ネジを緩めた状態(フロッシュと巻き革とはほぼくっついているはずです)で、そのままケースにしまっても全く問題ありません。次の日には毛は緩んでいるはずです。
 このような現象は、特に毛替えをして間もない頃に顕著に現れます。というのは、毛替え直後には、毛の長さは若干きつめに張っているからです。なぜならば、毛はその後、「クサビの遊び」が詰まることによって僅かに長くなるからです。従って、毛替えをして2ヶ月以内くらいの期間中には、上記のような現象は起きやすいのです。というよりも、ほぼ確実に起きるものなのです。
 逆に言えば、「長すぎる毛替え」をした場合や、毛の長さが安定した状態の弓(毛替え後2ヶ月〜半年?または1年?)の弓においては、このような現象は起きにくいものです。
 さて、一番心配なのは、毛を張ったままでケースにしまって、弓が傷んでしまわないかという事だと思います。もしも、翌日になって毛の長さがもとに戻っている(ほんの僅か張っているくらいは問題ありません)ようでしたら、弓への悪影響は全くありません。普段行っている「毛を張っての演奏」に比べたら、弓への影響は非常に小さいと考えられるからです。しかし、フロッシュが引っ掛かった状態で何日間も放置して置いたり、または弓の毛が本当に短すぎて、毛が常時張りっぱなしだったりすることは良くありませんので、その点はご自分の楽器や弓への注意を怠らないようにしてください。

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