E弦の表面処理の違い

2012年1月2日 ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

「オリーブ」と「エヴァピラッツィ」E弦の光沢

 「オリーブ」と「エヴァピラッツィ」は共にピラストロ社の弦の商品名です。これら2つのE弦は表面が金メッキ処理されていますが、その光り方には違いがあります。オリーブEの方はピカピカ光っていて、一方エヴァピラッツィEの方はツヤ消しのような金色をしているのです。これらの違いがどこにあるのか?そしてそれは音色に関係するのか?疑問におもっていたのですが、先日デジタルマイクロスコープを導入しましたので、これらのE弦の表面を観察・撮影してみました。

 

2種類のE弦の表面の違い

 肉眼で見るオリーブE弦とエヴァピラッツィE弦では、金色の光り方が全く異なっています。その違いがメッキの種類によるものなのか、それとも金属表面の状態によるものなのかがわからなかったのですが、拡大して観察してみると、E弦の金属表面処理の違いがそれらの光り方に特徴を出していたようです。

オリーブE弦

 オリーブEの表面は、私の想像ではもっとツルッとしていると思っていましたが、1,500倍に拡大していると意外と細かな傷が付いているのがわかります。弦の方向(横方向)の微細な傷は、弦を絞り出したときに自然に生じた傷だと思います。一方、明らかに太い傷も何本か見えます。これらは弦の摩擦力を増すために、意図的に作られた溝なのではないでしょうか。

 

エヴァピラッツィE弦

 一方、エヴァピラッツィE弦の表面は、オリーブE弦の表面処理とは明らかに異なっています。弦の表面全体に、意図的に細かな傷が付けられています。この細かな傷が光りを乱反射させ、「ツヤ消し」のような輝きをしていると考えられます。この表面処理も、弦の摩擦力を考慮して施されたものと思われます。

 

まとめ

 2つの弦の違いを簡単にまとめると、「オリーブE弦は、比較的ツルッとした金属表面に、太い溝が付いている」。一方、「エヴァピラッツィE弦は、金属表面に細かなザラザラの傷が付けられている」と表現できます。これらの表面処理の違いによって、実際に摩擦力がどの程度変わってくるものなのか、今回はそこまでの考察は行えませんが、表面処理の違いが何らかの音色の特徴を生むことは間違いありません。事実、両者の音には違いがありますが、その違いの大きな要因はこの表面処理方法の違いなのかもしれません。
 また、オリーブEと比べてエヴァピラッツィEの方が、手の汗で錆びやすいです。この理由も、今回エヴァピラッツィの表面を観察したことで、その理由の想像がつきます。おそらくエヴァピラッツィE弦の表面の細かな傷のせいで表面積が大きくなり、空気中の酸素や手の汗と触れやすくなり、錆の反応が起きやすくなったのでしょう。または、細かな傷のために、金メッキの付き方に厚みのムラが生じているのかもしれません。

 みなさんも、E弦を弾くときには、ほんの一時だけでもかまいませんので、「E弦表面の金属の状態」を意識して音を出してみてください。ヴァイオリンの音の奥深さをさらに感じていただけると思います。


 

 

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