ヴァイオリンの倍音はどこまで出ているか 〜Earthworks M50マイクにて再測定

2006.5.11 ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

 以前、ヴァイオリンの倍音成分がどこまで出ているかを測定したことがありますが、今回はより高性能のマイクロフォンにて再測定してみました。ちなみに測定対象の楽器は以前のものと異なります。

参考(以前に書いたレポート)
 マイクの周波数特性の比較
 ヴァイオリンの倍音成分はどのくらいまで出ていますか?(改訂版)


測定マイクロフォンEarthworks M30とM50
 以前の測定では30KHzまでをほぼフラットに測定できるEarthworks M30を使って倍音を測定してみました。今回は50KHzまでを測ることのできる、より高性能なEarthworks M50マイクロフォンを使って、以前のM30マイクロフォンと比較してみました。
 測定はスチールE弦(ピラストロー社Tonica弦)を張ったヴァイオリンのE開放弦の音を弓で弾き、2つのマイクロフォンで録音しました。マイクロフォンから楽器までの距離は約30cmです。
 測定にはいつも通りEcho Laptop MONA(24bit 96KHzサンプリング)+Spectra PRO FFT解析ソフトを使用しました。

仕様
●周波数特性: 3Hz〜50kHz (+1/-3dB)
●指向特性: 無指向性
●感度: 30mV/Pa (-30.5dBV/Pa)
●電源: 48V Phantom, 10mA
●最大許容音圧: 142dB SPL
●コネクター: XLR(Pin 2+)
●負荷インピーダンス: 600Ω
●雑音: 22dB SPL equivalent(A weighted)
●寸法(長さ×径): 229mm×22mm
●重量: 225g

    



考察
 以前、Behringer社のマイクロフォンECM8000からEarthworks M30のマイクロフォンにグレードアップしたときにも、その測定結果の違い(高倍音の測定結果)を実感したのですが、今回もEarthworks M30とEarthworks M50では約35KHz以上の測定結果に大きな差が出ています。
 今回のEarthworks M50マイクロフォンではグラフの限界の48KHzまで明らかな倍音成分のピークを見ることができます。もちろん、このくらい高い倍音成分がヴァイオリンの音色の主要因を占めているとはとうてい考えられませんが、しかし今回の測定実験により、Eの開放弦の音は非常に高い周波数成分まで出ているということだけは事実として言い切ることができるようになりました。
 マイクロフォンの性能がここまで高くなると、今度はマイクプリアンプの性能がマイクロフォンのレスポンスに追随しているのかということが気になり出しました。これは数年ごとに感じることですが、測定器の性能の向上にはすさまじいものがあります。

 ちなみに、ヴァイオリンの低域弦であるGなどの音は10数KHzまでしか倍音成分が出ませんし、またEの音でもハイポジションの高い音は、倍音成分は逆に高周波帯域まで出ません。従って今回測定したE開放弦の倍音成分の出方を、ヴァイオリンの全ての音に当てはめることは危険です。あくまでも「ヴァイオリンの特徴の一側面」として理解すべきなのです。
 通常の周波数考察は対数グラフで見た方が人間の聴覚に合っているのですが、今回の測定では高周波倍音を調べるためにあえてリニアスケールでグラフをプロットしています。

グラフ上がEarthworks M30マイク、下がEarthworks M50マイクです。

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