マイスターのQ&A

ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗


:弓の巻線には色々な種類のものがあるようですが、どれがよいのですか?


:「巻線」とは、人差し指が触れる部分に巻かれているものです(巻革とは別です)。これには色々な種類があります。一般的なものだけでも書いてみましょう。

巻線の種類
 ・銀線
 ・洋銀線(銅合金)
 ・金線(7Kから14Kくらいが一般的)
 ・鯨のひげ(一般的に黄色と黒の縞状)
 ・イミテーション鯨のひげ(上記のものと、簡単には判別できません)
 ・プラスティック製リボン(鯨のひげのようなタイプですが、明らかにプラスティック)
 ・銀糸線(糸の周りに細い銀が巻かれている)
 ・金糸線(糸の周りに細い金が巻かれている)
 ・巻線無しで、長い革が巻かれている

 巻線にはこれだけの種類があり、さらにそれぞれにおいて様々な太さの種類があります。そしてこれらの「種類」や「太さ」、「巻く長さ」によって、重さが変わるために、弓の重心も変わってきます。これらの重心移動について詳しく知りたい方は、私のホームページの「技術関係レポートコーナー」に掲載している「巻線と弓の重心移動」を見てください。
弓の価格と、巻線の価格とのバランス
 さてこれらの中で、どの種類の巻線がよいのでしょうか?これは一概には言えません。なぜならば、弓の値段などによって、巻線に費やせる費用には違ってくるからです。例えば、銀線と洋銀線とではそのバランス性能はほとんど同じです。ですから単純な「弓のバランス」だけでしたらどちらでも同じです。しかし「サビにくさ」などの意味から、銀線の方がはるかに性能がよいとされるのです。しかし、当然の事ながら値段も高くなります。
重すぎる巻線への警告
巻線で重要なことは、重心を手元に寄せすぎないということです。これは意外な盲点です。というのは、演奏の初級者はもちろん、中級者に至るまで(または演奏を得意としない技術者までもが)、弓のバランスが手元にあった方が演奏しやすいと感じてしまうからなのです。従って、巻線を太くして意図的にバランスを変えている弓が多いのです。
 例えば銀巻線の標準は、直径0.25mmです。これを0.30mmの巻線に変えただけでも、重心の位置は数ミリも手元に寄ってしまうのです。私の感じる良質な弓は、持ったときに決して重さを手元には感じません。弓の中心よりに感じます。先のような巻線の操作は、この感覚に逆行した操作になってしまうのです。
 弓の持つバランス性能は、弓の竿が持っています。これを巻線や先端への重りなどで強制的に操作しようとしても、それは不自然にしかなりません。というのは、弓は単に持って使用するものではなく、弓の一部分(それも常に変化)を弦の上に乗せて使用するものだからです。ですからたとえ持った状態でよいバランスに整えたとしても、弾いた状態ではそのバランスは崩れてしまいます。それどころか異質に感じてしまうのです。

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