マイスターのQ&A

ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

:出来の悪い楽器は壊して廃棄処分したりするのですか?

:この事については勘違いをしている方が随分といます。事実、私も以前テレビで、山奥で製作しているヴァイオリン製作者が、完成した楽器の音が気に入らないといって、「バキッ」と壊しているのを見たことがあります。
 このようなことは「陶芸」では行われていることです。そして「陶芸」→「マスコミ(テレビ製作者)のイメージしている職人気質」というように、勝手な職人像が作り上げられてしまったのだと思います。

 さて、答えから先に述べてしまいますと、弦楽器製作において完成した楽器を壊して廃棄処分にするということは決してありません。それは「陶芸」と「弦楽器製作」とでは、同じ「製作技術」でも根本的に違った要素を含んでいるためです。

陶芸と弦楽器製作の違い
 陶芸作家が、釜から出した作品を神妙な顔をしながらバシバシと割っていくシーンは、よく目にします。そして、「これこそが自分に妥協しない職人気質!!」と思っていらしゃる方も多いのではないでしょうか?ところがこれは陶芸という特殊な製作のみに当てはまることなのです。
 陶芸においては、粘土の選択から始まって形を作るまでは普通の「製作」と変わることはありません。すなわち、技術のある職人ならば、自分の技術によって次の行程がコントロールできるのです。簡単に言うと、自分の考えているような製作ができます。しかし特殊なのは「窯焼き」です。これは予想が付かないのです。ある程度博打的な要素を含んでいます。従って焼き上がった陶器も、必ずしも製作者の想像していたものになるとは限りません。場合によっては割れが入ってしまうこともあることでしょう。
 このように、陶芸の製作においては「窯焼き」という不確定要素が入ってしまいます。従って、陶芸作家は最終的に「選択(廃棄処分)」を行うことによって、自分の真の意味での作品のみを残すのです。
 これが弦楽器製作となると、製作に博打的な要素が入ることはありません。従って、自分の技術の範囲で製作をコントロールすることができるのです。従って、当然の事ながら技術のある製作者ならば、完成後の自分の楽器は想像でき、かつ、実際にそのような楽器を製作することが可能なのです。
 もしも最初で述べたような、「最後に楽器を壊してしまう製作者」が居るとするならば、その人は自分の技術の無さを披露しているだけです。なぜならば、製作の最後になるまで自分の製作程度の低さに気が付かなかったというだけだからです。
弦楽器製作では、自分のイメージ通りの楽器が作れるのか
 上記では、弦楽器製作においては自分の製作がコントロールできると書きました。しかしもちろん出来上がった音色を100%想像できるというものではありません。従って、完成して、音を出してみなければ分からないと言う部分も無いわけではありません。しかしこれは、その製作者の意図した範囲内でのバラツキなのです。従って、壊して廃棄してしまおうと思う程、幻滅してしまうということはあり得ないのです。
 もちろんこれは、技術のある製作者の場合です。技術のない製作者の場合には、自分の気持ち(理想)と現実の製作技術とがかけ離れてしまっているので、出来上がったときにその音と製作美に幻滅してしまって、衝動的に楽器を壊してしまう人もいるかもしれません(普通はそんな人はいませんけれど・・・)。

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