マイスターのQ&A
ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗
Q:表板の「ハーゼ」とは何ですか?
A:「ハーゼ」とは下写真のように、表板に木目と直行するようにはしる模様のことです。この様な模様の入っている松材のことを「ハーゼ・フィヒテ」と呼びます。「ハーゼ」とはドイツ語で「ウサギ」の事です。この「ハーゼ」の語源を何人かのドイツ人製作者に尋ねたところ、皆「よく分からない」との答えでした。カントゥーシャ氏もやはり詳しいことは知らないとの前置きの上で、「ウサギの意味ではなく、ハーゼルヌス(榛:はしばみ)の言葉から来ているのではないか」と言っていました。すなわち、榛材の模様と似ている事から来たという推測です。この他にも、その模様が、雪の上に残ったウサギの通った跡にも似ていることから「ウサギ」の語源説も捨て切れません。
とにかく、ヴァイオリン製作者の間ではごく当たり前に使われている「ハーゼ」という言葉は、意外にも皆その語源を知らないのです。もっとも、私が尋ねた製作者が数名だったため、もしかしたら語源の定説はあるのかもしれませんが・・・。
先に述べましたように、楽器を製作する側はハーゼ・フィヒテに対してかなり意識することも多いです。しかし楽器を購入する側としては、あまり意識すべきではないでしょう。単なる表板の「模様」くらいに考えるべきだと思います。また、ハーゼがはいった表板だからといって、取り扱いの面で一般の松材と変わるところはありません。