マイスターのQ&A
ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗
Q:ヴァイオリンを作るためには、どれくらいの木が削り捨てられているのですか?
A:これは非常にマニアックな質問であると共に、環境問題などの面からすると非常に厳しい質問でもあります。
以下のデータは私が1990年に手元にあった木材、作りかけの楽器を計測したものです。厳密な意味でのデータではありませんので、そのつもりで見てください。
材料の質量 | 完成後の質量 | |
表板 | 625g | 62.0〜79.0g(f孔開け後) |
裏板 | 1200g | 120g |
ツァルゲン(横板) | 58.4g | - |
ライフェン(ライニング) | 21.0g | - |
ネック | 762g | 100g |
クロッツ(ブロック) | 320g | - |
バスバー | 32.0g | 2.3〜4.0g |
指板 | 80.0g | - |
駒 | 11.0g | 2.6g |
魂柱 | 5.0g | 0.6g |
ザッテル(ナット) | 8.6g | - |
合計 | 3,123g | 360〜400g(ペグ、アゴ当て無しの状態) |
これらの数値に関しては、幾つかのサンプルのみを実測したものであり、特に、完成後のヴァイオリンの質量に関してこの値が統計的な基準値ではないということに注意してください。
結論としては、材料の内で実際にヴァイオリン本体になるのは全質量の12%でした。しかしこれはヴァイオリン用に製材した木材を使用した場合での話です。樹木から製材する時に出てくる無駄も考えると、ヴァイオリンは材料の90%以上の犠牲の上に存在するという非常に贅沢な製品なのです。また、これだけ丹念に削り落とすということは、製作にそれだけ手間がかかっているということです。手工芸ヴァイオリンが高価であるということも分かっていただけたかと思います。