マイスターのQ&A
ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗
Q:ラーセンの松ヤニ
A:今回はQ&Aというわけではありませんが、ラーセンの松ヤニについて書いてみます。松ヤニはそれぞれの商品でそれぞれの特徴があります。どの松ヤニの性能が高く、どれが低いという事はありません。製品としての価格も結構いい加減なもので、性能を表しているわけではありませんので注意してください。自分にとって調子が良いと思えば、それで良いのです。
さてしかし、多くの松ヤニを全て購入して弾き比べてみるというのは現実的ではありません。特に松ヤニの試奏の場合、前に付けた松ヤニの影響を受けてしまいます。従って、あまり多くの松ヤニの弾き比べをすると、逆に何が何だか判らなくなってしまうのです。一度に出来る弾き比べは、せいぜい2〜3個までと考えるべきでしょう。ちなみに、純粋な松ヤニの特徴を調べるためには、毛替えをしたばかりの弓に松ヤニを塗る必要があります。しかし、それでは比較することは不可能です。従って、前の松ヤニの上に別の種類の松ヤニを塗って比較する事になりますが、ある程度ならば比較は可能です。キャラクターの差はきちんと判るものです。しかし、何度もそれを繰り返していると、松ヤニの量が多くなりすぎて(毛が粉っぽくなる)、種類の違う松ヤニどうしが混じり合ってしまうのです。こうなってしまうと、わけがわからなくなってしまいます。そのような場合には、長時間演奏して毛に乗っている松ヤニを落とし(少なくし)、 別の日に再び松ヤニの比較を行ってください。
松ヤニの特徴は、弦のそれと同じで、それぞれがある程度のキャラクターを持っている反面、使用する楽器や弓との相性によって表現ががらりと変わる事もあります。従って私は「この弦は…ような特徴」、「この松ヤニは…ような特徴」と、決めつけて言いたくないのです。今回もそのような意味から、松ヤニの絶対的な性能ではなく、キャラクターの「一側面」について書きますので、注意してお読みください。
- ラーセンの松ヤニ
- ラーセン松ヤニが発売されたのは1年くらい前(2002年くらい)の、新しい松ヤニです。従って皆様の中には使った事がない人、製品自体を知らない人がほとんどの事と思います。私も試しに使ってみたのですが、なかなか面白い特徴を持った松ヤニですので、ここで紹介したいともいます。
松ヤニの重要な要素はいくつもありますが、その中でも特に重要なのは「粒子の具合」と「粘り気」です。これによって製品の使い勝手を分類するのが普通です。
例えば私がよくお勧めする「クロネコ(正式名称:ミラン・ド・ルージュ-フランス)」は粒子が細かく、粘度は中位という癖のない松ヤニです。これとキャラクターが似ている松ヤニは「グスタフ・ベルナルデル」という松ヤニです。この松ヤニはクロネコよりもほんの僅かに粒子が粗い感じがしますが、癖のない使いやすい松ヤニです。事実、この両者の松ヤニを使っている方はずいぶん多いのではないでしょうか?私も「無難な松ヤニ」を勧めるとしたら、これらの松ヤニになると思います。
一方ピラストロ社の松ヤニ(写真中の「オリーブ」、「トニカ」)は、どちらかと言えば粒子が粗いです。この粗さが好きだという方もいるのですが、これは好みが分かれる所です。私自身はあまり好きになれません。どうもザラザラと感じてしまうのです。もっとも値段が安いのは魅力ですが。
- ラーセンの特徴
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さてラーセンの松ヤニですが、特徴としては粒子が非常に細かく、しかし粘り気があるというものです。チェロで好まれる松ヤニに近い雰囲気です。もちろん粘り気があるといっても、ベトベトしているわけではありません。
このラーセンの松ヤニを塗って最初に気がつくのは、弓の運動の重さ(摩擦係数)が明らかに重くなったという事です。確実に弓の毛が弦を捉えているのを感じます。しかしその反面、弦をキッチリと捉えすぎていて、弓の返しの時のカツンという音まで出てしまうのです。この辺りは、演奏者との相性にもよるでしょう。
また楽器によってはヒステリックな音になってしまう場合もあります。しかし、相性が良い場合には今までは掠れて裏返ってしまっていた音がきちんと出たり、または明るく大きな音になったりします。弓毛が弦に触れたその瞬間の意識まではっきりと判るほど、摩擦係数が高いと感じる松ヤニです。しかしザラザラした感じは全くないので、「違和感のない摩擦係数の高さ」と言えるでしょう。
- 欠点と使いこなしのテクニック
- 先にも述べましたように、欠点は、それが長所でもあるのですが摩擦力の高さです。私の実験ではラーセンだけを長い期間使い続けたわけではないので、はっきりとした事は言えませんが、心配なのはベタベタしすぎるかもしれないという事です。先でも述べましたように、楽器との相性が悪かったり、または調整が間違っていたり、または弓毛の質が低かったり、毛替えの作業品質が低かったりした場合には、それをダイレクトに反映してしまって、ギスギスした音になってしまう可能性もあるのです。
そこで私がお勧めする方法は、クロネコ(またはベルナルデル)と併用するという方法です。ラーセンばかりを使い続けて摩擦係数が高くなりすぎた場合には、時々、ラーセンではなくてクロネコだけを塗ってあげるのです。または毎回、ラーセンとクロネコを混ぜて塗ってみるのも良いかもしれません。先日には、私の所に来たお客さんと、「部分的な塗り分け」についても検討してみました。
このように、まだこれといった使い分けのノウハウがあるわけではないのですが、ラーセン松ヤニはなかなか特徴的な松ヤニですから一度試してみるのも良いのではないでしょうか。
ちなみに、値段はクロネコ(\2,000)、ベルナルデル(\2,500)、ラーセン(\2,500)ですので、ほぼ同じ価格帯です。ちなみにラーセンはチェロ用のものも同価格、同外観で発売されています。しかし、私はヴァイオリン用と比べてどのような性能差があるのか、まだ調べてはいません。
参考資料
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