マイスターのQ&A                    ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

:ニカワとはどのような物ですか?

:「ニカワ(膠)」とは弦楽器製作に用いられる接着剤です。これは、化学接着剤が発明されるまでは、ほとんど全ての接着関連作業に利用されていたといったもよいでしょう。現在でも弦楽器製作のみならず、絵画、工芸など様々なところで利用されています。

ニカワの材料
 ニカワは動物の骨や皮を煮込んで抽出される、不純物をいっぱい含んだ、ドロドロした黄色の液体です。匂いもずいぶんとあります。骨から作るニカワを「骨ニカワ」、皮から作るニカワを「皮ニカワ」とよび、その特徴も若干異なります。ちなみにこの液体の不純物を取り除いた物が「ゼラチン」で、無色無臭です。
 ニカワはこの不純物の量によって接着力が決まります。多いほど接着力が強く、ゼラチンのように純粋になればなるほど接着力は弱くなります。しかし一方で、不純物が多いほど腐りやすく、また劣化しやすくなってしまうので、程良い質のニカワを求めることが大切なのです。

ニカワの使用方法
 先のようにして抽出したドロドロとしたニカワを乾燥させた物が、いわゆる商品としての「ニカワ」です。これを使うときには、82度くらいで湯煎して、水を足して再び液状にして使用します。低温で湯煎するとニカワが融けず、かといって高温で煮立ててしまうと、ニカワが傷んで、接着力が落ちてしまいます。
ニカワの特徴
・接着力が強い。
・水分を多く含んでいるために、木材との相性がよい(乾く課程で繊維に染み込むことによって、接着面同士を引き寄せる)。
・修理などの時に、水で湿らせることによって簡単に剥がすことができる。
・低価格。比較的簡単に入手可能。
ニカワの欠点
・日本の梅雨時期には、質の悪いニカワは腐ってしまう。
・手の汗によって、接着面が剥がれてしまうことがある。
・硬質なために、ニカワの付いた板を削ると、刃物が傷んでしまう。
・経年変化によってもろくなってしまう。
弦楽器製作におけるニカワ
 ニカワではなく化学接着剤でも、ヴァイオリンの形をした物でしたら作れます(事実低価格帯の量産楽器はそうして作られています)。そして初期性能だけに関していえば、ニカワを使って作った楽器との違いは分からないでしょう。
 しかし、これでは楽器の修理は利かなくなってしまうのです。時間が経てば経つほど、劣化してしまうのです。このような楽器では、ほんの20〜30年間で楽器はずいぶんと傷んでしまうと考えられます。
 もしもニカワという接着剤が無かったならば、弦楽器はこれほど奥深く、面白い楽器にならなかったことでしょう。

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