マイスターのQ&A
ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗
Q:ヴァイオリンのオリーブエンド弦はなぜ高いのですか?
A:ヴァイオリンのガット弦の「オリーブエンド」弦は高級弦の代名詞と言ってもよいでしょう。確かに他の弦と比べて抜きんでて価格が高いです。しかし、それを「高性能弦」と勘違いしている人も多いですので、注意が必要です。今回は、オリーブエンド弦がなぜ高価なのかの理由を説明することによって、客観的な眼で「オリーブエンド」弦を見つめてみましょう。
- オリーブエンドの材質
- これまで何度も述べていますように、「最高の弦」は存在しません。使用する楽器の特徴、使用目的などによって求める弦は異なってくるからです。しかし一方で、格弦によって製品価格の幅があることも確かです。しかし、これは主に弦を作る素材の価格差が製品の価格差に現れているのであり、それを単純に「性能差」とは言えないのです。
さて、ヴァイオリンのオリーブエンド弦のそれもDとG弦だけは特別に高価です。他の種類の弦の2〜3倍のも値段です。このオリーブエンド弦は天然ガット弦を芯材としてるというのも高価であるひとつの理由ではありますが、全てのガット弦(例えばオイドクサー弦など)がみな高価というわけではありません。従って、オリーブエンド弦のD、Gが高価なのは、ガット弦だからではないのです。その理由は、巻線に「金」を使っているからなのです。
- 弦素材としての金
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弦の巻線としての物理特性を考えた場合、「重く」、「しなやか」、「錆びない」という要素はとても重要な要素です。そしてそのような特徴の金属を挙げてみると、「金」や「銀」の貴金属が自然と出てくるのです。これらの貴金属以外にも「重さ」の要素だけを考えると、「クロム」や「タングステン」などもありますが、これらの金属は硬すぎて、結果として倍音成分に乱れが出てしまいます。チェロ用の弦の場合には話は別ですが、ヴァイオリン弦のそれもガット弦用としては金や銀、アルミなどの素材が適しています。
このように、「金」は巻線として理想的な素材ではありますが、その欠点は価格の高さです。すなわち、その価格の高さをあえて無視して作ったのが「オリーブエンド弦」なのです。
- オリーブエンドの拡大写真
- 下にオリーブエンドのDとG線の拡大写真を掲載しました。左からDリジット、Dノーマル、Gノーマル、Gリジット弦です。D線はノーマル弦、リジット弦共にアルミ巻線2に対して、金巻線を1の割合で巻いています。一方、ノーマルのG線は銀巻線2に対して金巻線が1でが、Gリジット弦は銀1に対して金2の贅沢な素材構成をしているのがわかると思います。
オリーブエンドのDとGが高価で、その中でもGリジット弦が特別に高価であるという理由は、このような金と銀の使用量に比例しているのです。
左からDリジット、Dノーマル、Gノーマル、Gリジット弦
価格は左から\2,800、\2700、\5,000、\6,100
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