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マイスターのＱ＆Ａ

ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター　佐々木朗

Ｑ：アジャスター埋込式のテールピースを使っていますが、交換した方がよいのでしょうか？

Ａ：これは、一概には答えられません。というのは、演奏者のレベル、楽器のグレード、楽器の調子、楽器のキャラクターなどたくさんの要因があり、それらを総合して考えるべきだからです。ですから、ある楽器においては良くないと言えても、別な楽器においては、それがベストだったりするからです。
　そこで、直接の回答とはなりませんが、「４弦アジャスター埋込式の軽金属製テールピース」と「木製テールピース」との比較を書いてみましょう。

アジャスター埋込式タイプ（金属タイプ）のメリット

演奏上の面で: 　初心者にはペグを回してのチューニングは難しいです。このために、いい加減なチューニングで楽器を弾いていたのでは、楽器の魅力は感じられません。そして上達も遅いことでしょう。また、チューニングができないことに限界を感じてしまって、演奏（レッスン）を止めてしまってはもったいないことです。
　これは初心者だけの話ではありません、世界的なソリストの中にもアジャスター内蔵のテールピースを使っている人を見受けます。それは「精密なチューニング」を要求しているためでしょう。というのは、準備段階としてのチューニングならばペグのみで完璧に行うことができます。しかし演奏中の微妙な音程の狂いの修正は、アジャスターで調整する方がはるかに完璧に行うことができるのです。
　このように各演奏者のレベルによって、「アジャスター内蔵」に求める要求も異なってくるのです。

弦との関係から: 　初心者の場合には、その使用楽器の質的なこともあって、スチール弦を使うことが多いです。そうすると、スチール弦は糸巻きによるチューニングが微妙で難しいのです。こういった場合、アジャスター付きのテールピースはありがたいものです。

値段的な面で: 　安い楽器の場合には、部品なども安い品がついています。テールピースなどは柔らかい木に、ただ単に黒く色を塗っていることが多いです。こういう物では長年使っている間に、弦を差し込んでいる穴が拡がってしまい弦が抜けてしまったり、またテールガットの穴が拡がり、いきなりテールピースが取れてしまうトラブルもあります。その点、アジャスター付きのテールピース（軽合金製）は、値段も手頃で、さらに質的には立派な（きちんとした）作りをしています。

アジャスター埋込式タイプ（金属タイプ）のデメリット

演奏面: 　アジャスターでばかりでチューニングしていたのでは、いつまでたってもペグによるチューニングを覚えられないのは確かでしょう。

チューニングの面: 　ペグによるチューニングが弦を糸巻き方向へ引っ張るのに対して、アジャスターによるチューニングでは、弦をテールピース側へと引っ張ります。もちろん理論的には（駒と弦の摩擦が無ければ）どちらでチューニングをしても同じになるはずですが、実際には駒と弦との摩擦があるために、話しは違ってきます。
　ペグによってチューニングする場合には、駒に乗っている弦はあまり移動しないのですが、一方、アジャスターによるチューニングでは、駒の上を弦が大きく移動します。こうした場合、駒と弦との摩擦がなければ何の問題はないのですが、実際にはものすごい摩擦抵抗があり、結果として駒は弦と一緒に傾いてしまいがちです。これによって、駒が傾いてしまったり、または駒にかかる歪みの違いによって音色に微妙な差を生みます。
　また、チェロの場合に顕著ですが、アジャスターと駒との距離によっても音色は変わります。アジャスターを回すということは、すなわちこの距離が常に変化するということです。従って、音色がいつも一定しないわけです。

楽器との相性: 　軽合金製のテールピースと、良質黒檀のテールピースでは質量も、振動特性も異なります。そしてそれらの選択によって、楽器の音色をセッティングすることができるのです。もちろんどちらの方がよりよい音とは、一概には言えません。

シンプル: 　弦楽器は基本的には構造がシンプルで、さらに軽量（しかし強度はもって）なのが良い音につながります（上記のように例外もあります）。その意味からは、良質テールピース（楽器に合わせてチューニング）＋軽量アジャスター１個という構成が良いです。しかしこれは中級以上のセッティングであり、また常にこれがよいというものでもありません。楽器のセッティングは、楽器トータル（演奏も含めて）を考えた上で行うものだからです。

　これまでに述べたことは、ヴァイオリンやヴィオラでの話です。もちろん理論的には、チェロにおいても当てはまるのですが、チェロの場合には弦の張力の問題から、アジャスター埋込式でないテールピースでは現実的でないでしょう（それでも、チェロのソリスト達には、ペグのみでチューニングするという人達もたくさんいるようです）。

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