マイスターのQ&A

ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

:よく、音の良い楽器は見ただけでも分かるといいますが、これは本当なのでしょうか?

:結論から申しますと、ヴァイオリンの良し悪しは音を聞かなくても、見ただけである程度分かるというのは本当です(ただし、完璧にわかるというものではありません)。その理由は、下記の通りです。

1・楽器の外見を綺麗に作れる製作者は、見えない部分(音に重要な箇所)も手を抜いていない場合が多い。または、外見を綺麗に作れる製作者は、自分のコントロールの基に(ミス無く)楽器を意識的に作れる。=初めから音がよい。

2・外見の綺麗な楽器は大切に扱われる。=長期的スケールで良い状態を保ち、すなわちより良い楽器に成長する。

3・外見の綺麗な楽器にトラブルが起きた場合、修理者は下手な修理ができない(自分の修理がばれてしまうから)。=長期的スケールで良い状態を保ち、すなわちより良い楽器へと成長する。

4・外見の綺麗な楽器にトラブルが起きた場合、所有者はその事に気付きやすく、そしてお金をかけてでも良い修理をする確率が高い。=楽器が傷みにくい。

5・外見の綺麗な楽器は、きちんとした材料をしようしている。=音が良い。そして将来的に「木材の音響性能」部門の向上が期待できる。


 この様に、ヴァイオリン(族)という楽器を考える上では、初期性能だけではなく、長期的スケール(最低でも10年位)で楽器を判断します。そしてそれらの総合が「楽器の性能(良い楽器か?)」となるのです。

 ここで、ある程度詳しい方は疑問を持つかもしれません。「それはストラディヴァリには当てはまっても、作りのいい加減なグァルネリには当てはまらないではないか!!」、と。このような質問を、私はこれまでに何回も受けました。
 答えからいいますと、正しいのです。というのは、多くの書籍に見られる「グァルネリは作りは下手だが、音は良い。天才だからである」という記述は、少々面白おかしく書かれているからです。
 私はこれまでに多くのグァルネリ(ファミリー)楽器を見ましたが、そのほとんどはとても素晴らしい作りをしているのです。「作りが雑」と言われる部分は、音色に直接影響しない部分の渦巻きです。私の推測では、当時のヴァイオリンという楽器は、現代のように芸術的意味合いはなく、より実用品だったと思います。そこでグァルネリは、音と関係ない(と判断した)渦巻き部分は手抜きしたのでしょう。
 このように素晴らしい作りをしているグァルネリの楽器が、当時から評価され、そして現代においても良い状態を保ち、そして名器として扱われていることは簡単に理解できます。 

 最後に、楽器を選ぶ上でのアドバイスです。
  1.自分の予算(または楽器の使用目的)をはっきりとさせ、自分に認識させる。
  2.「値段や名前に惑わされないぞおっ!」と、自分に言い聞かせる。
  3.まずは目で見て(ラベルなどは見ない)、純粋に綺麗な楽器、引きつけられる楽器を選ぶ。
  4.次に実際に弾いてみて、音の気に入ったものを残す。
  5.値段などを考慮の上、1本に絞り込む。

 ほとんどの方(プロの演奏者も含めて)は、3.と4.を逆に行ってしまうのです。これは最もいけません。というのは、いったん音が気に入ってしまうと、ついつい状態の良くない(例えば健康状態が悪かったり、作品の質が低かったり)楽器でも許してしまうのです。
 しかし何度も述べているとおり、ヴァイオリンの性能は初期性能だけでは決まりません。たとえ現時点では100点満点に思っても、日に日に性能が落ちていく(ちょっと大げさな表現ですが)楽器に、いつまでも満足できるわけがないからです。
 「現時点の音さえ良ければいい」と割り切れる、プロの演奏者ならそれも構いませんが、おいそれと楽器を買い換えることのできないアマチュア演奏者には、このポイントはぜひ押さえてほしいことです。

 自分には楽器を見て判断する知識がないと思われる方でも、心配ご無用です。素直な気持ちで見た楽器の印象というのは、専門知識が無くても意外と的を得ているものです。逆に、中途半端な知識や欲をもって接する人ほど、大きな勘違いをしている場合が多いのです。
   

Q&Aに戻る