マイスターのQ&A
ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗
Q:楽器の調整をする上で重要なのはどの部分なのでしょうか?
A:駒や魂柱などの調整によって、楽器の音色や弾き易さはずいぶんと変わるものです。しかし、これらの箇所が一番重要というわけではありません。強いて言うのならば、「全て」が重要なのです。
これは機械時計を例に取ってみると分かりやすいと思います。「たくさんある歯車の中で、どれが重要なのでしょうか?」
これがいかに愚問かは説明する必要もないくらいですが、あえて書いてみましょう。当然、たった一つの歯車が無くなっただけでも、時計は動きません。そしてそれら一つ一つの歯車(その他にも軸、材質・・・等)の微妙な精度が集まって、時計の性能を決定するのです。
- 各部の調整の方向性
- さて、ここで弦楽器に話を戻してみましょう。弦楽器の場合にも機械時計と同じように、「全て」の部分が重要です。しかし弦楽器の調整において大切なのは、これら「全て」の箇所の調整を、一つの目標に向けて行うことなのです。
弦楽器の各部の重要性は何度も述べましたが、各部分の影響力は微細なものがほとんどです。例えば糸巻きやアゴ当てなどを単体で調整したからといって、音は極端には変化しません。しかし、それぞれの方向(例えば音色の目標であったり、または弾き易さの目標であったり)をピッタリと揃えることによって、結果的に楽器の音を引き立たせることができるのです。これが真の意味での「調整」です。このためには、正しい理論的裏付け、または経験的裏付けが不可欠です。そして加えて、それを正確に実行する高い技術が必要となるのです。
これらの文章をイメージ図で表してみると、下図のようになります。左側では楽器の各部分の調整が、きっちりと目標に向かって行われているので、それらを総合してみると大きな効果が現れています。一方、右側は、各部分の調整に理論的方向付けを行わない場合です。結果として、それぞれの効果が打ち消しあって、良い結果が得られないばかりか、下手をすると悪影響さえ出てしまうのです。
部品を選択する場合でも、ただ単に「高級品」を選んだだけではいけません。せっかく、単品としては性能のよい高級部品を選んだとしても、下右図のようではいけません。いくら力持ちが集まったとしても、それぞれがバラバラの方向に力を加えたのでは、大きな力を発揮できないのと同じです。
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