マイスターのQ&A
ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗
Q:ケースに乾燥剤を入れた方がよいのでしょうか?
A:答えから申しますと、入れる必要はないと思います。
- 乾燥剤の効力
- これは、私のカメラ類の保管の経験から来るものですが、除湿効果を保ち続けるというのは、非常に難しいことなのです。例えばカメラ類は、気密性のある小さな箱に乾燥剤と共に保管します。この時の乾燥剤の量は、普通市販されている楽器用の乾燥剤よりも多いです。しかしこれでも、蓋をほんの数10秒間開けただけでも、湿度は見る見る上がってしまうのです。もちろん乾燥剤の交換も頻繁に行わなければなりません。
余談になりますが、カメラレンズ用で、小さな乾燥剤のような製品も売られていますが、あれは乾燥剤ではなく防カビ剤なのです。先にも述べましたように、気密性無しには乾燥効果はほとんどないと考えても大げさではないと思います。
- 楽器ケースの中の乾燥剤の現状
- 楽器ケースの中に乾燥剤を入れている人はよく見かけます。しかし、その乾燥剤を見ると、どう見ても1年間以上経っているものがほとんどなのです。まして、楽器ケースは、先のカメラ用の密閉ケースとは異なり、気密性はほとんどありません。また、頻繁に開け閉めします。このような状況では、市販の楽器用の乾燥剤では容量が小さすぎるのです。かといって、大きななタイプを入れると(入れるスペースもありませんが)、楽器の乾燥剤と密着している一部分のみが乾燥してしまいトラブルにつながるかもしれません。
除湿時の効果はほとんどないと書きましたが、もちろん全く無いわけではありません。例えば1ヶ月間に2〜3度交換するとか、または楽器ケースをビニールなどでくるんで、そして開けないまま保管する場合などはその効果はあるでしょう。しかしこのような適切な使用以外で、気休めで乾燥剤を入れるくらいならば入れない方が経済的も、そしてケース内のスペースを確保するためにも(これは大切なことです)、意味のない乾燥剤を入れる必要はないと考えます。
- どのような対処をしたらよいのか
- 皆さんは、梅雨時の楽器の保管が気になることと思います。しかし、普段楽器を弾いている人ならば、乾燥剤など無くても全く心配はいりません。楽器を演奏することで、楽器内の空気が入れ替わり、楽器の湿り具合は気にするレベルではなくなります。
それよりも梅雨時には、湿度よりもカビに気を付けるべきなのです。これは、使用後に弦や指板、アゴ当ての汗を拭き取ることで抑えることができます。当然事ながら、楽器を拭く布は常に選択をして清潔にしておかなければ効果はありません。
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