マイスターのQ&A

ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

Q:ヴィオラ用のアジャスターにはどのような物がありますか?

A:ヴィオラという楽器は、ヴァイオリンからコントラバスまでの中でもっともサイズの差がある楽器です。僅か40cm前後の楽器の中に、10cmほどの、場合によってはそれ以上の個体差によるバラツキがあるからです。これは楽器の寸法の比率から考えると驚異的な「差」です。
 こういった理由から、本来ならばヴィオラの部品にも様々なサイズのものが用意されていなければなりませんが、そうでないところがヴィオラの「マイナー」なところでしょうか。せいぜい「大」と「小」位の部品のサイズしか用意されていません。これがアジャスターの場合には、ほとんどヴィオラ専用のものは無いと言ってもよいくらいです。すなわち、ヴァイオリン用のアジャスターを流用するのです。

ヴィオラのアジャスターの種類
 ヴィオラに用いられるアジャスターには次のようなものがあります

1・アジャスター内蔵テールピース
 これはヴィオラ専用のテールピースです。ヴィオラはヴァイオリンに比べて弦の張力が大きいために、このようなアジャスター内蔵のテールピースが用いられることも多いです。また、ヴィオラの場合にはC線の開放弦を多用しますので、演奏中に瞬時に音程を微調整できるこのようなテールピースはとても便利です。従って、世界的なソリストの中にも、アジャスター内蔵のテールピースを使用している人は多いのです。ヴァイオリンの場合、このようなテールピースは「初心者用」というイメージがありますが、ヴィオラの場合にはもっと一般的と考えても良いでしょう。
 このアジャスター内蔵のテールピースには上記写真のような金属製の物の他にも、黒檀製などの「高級」アジャスター内蔵タイプの製品もあります。また、アジャスターの数が2個だけ付いているタイプもあります。
 このタイプのアジャスター内蔵テールピースの欠点は、その質量が若干重くなり、音響的にデメリットになることが多いということです。また、その構造が複雑になるために、雑音などのトラブルがでる危険性も増えてしまいます。
3・FIXタイプのヴィオラ用アジャスター
 参考のためこの上にヴァイオリン用のアジャスター(2)を並べていますが、このようにヴァイオリン用のアジャスターに比べて一回り大きいです。ヴィオラ用のアジャスターはこのタイプしか存在しないと思っている方も多いことでしょう。
 このアジャスターはほとんどのヴィオラに装着されていますが注意も必要です。楽器の大きさ、テールピースのサイズ、構造によっては、このヴィオラ用のアジャスターを付けると大きすぎるということもあるのです。従ってそのような場合には、ヴァイオリン用のアジャスター(2)を、あえて装着することもあります。
4・Kolb(またはGoetz)タイプアジャスター
 これはヴァイオリン用のアジャスターです。Hilタイプのアジャスターと構造は同じですが、ネジ頭部分が若干大きいのが特徴です。このアジャスターの特徴は見た目の美しさ、構造のシンプルさ、質量の軽さです。従って、音色重視の凝った調整の時に用います。
 欠点は、ヴィオラのA線端は「ボールタイプ」なので、このアジャスターを使用する場合には、弦のボールを一々取り去らなければならないということです。ヤーガーの弦などは比較的ボールを取り去りやすいのですが、それでもボールを取り去った弦は構造的に切れやすくなっていることも事実です。従ってこのようなデメリットも覚悟して使う必要があるのです。
5・ユニバーサルタイプ
 これはヴァイオリンとヴィオラの共通アジャスターです。一見このアジャスターもボールタイプの弦が付かないように見えますが、きちんとボールタイプも付きます。
 このアジャスターは扱いやすいアジャスターなのですが、少々癖のあるアジャスターです。それはテールピースの上面に乗せる感じで装着するために、このアジャスターを付けたテールピースは結果的に、A線側が下に押し下げられてしまうのです。すなわちテールピースがねじられた格好になってしまいます。表板の隆起がきついヴィオラの場合には、テールピースが表板に接触してしまう危険性も出てしまいます。
6・フレンチタイプ
 これも基本的にはヴァイオリン用のアジャスターです。従って、大きなヴィオラのテールピースには付かないこともあります。しかし、もしも装着することが可能な場合、これはお勧めのアジャスターです。ボールタイプの弦を付けることもできますし、また見かけよりも質量が重くはありません。またネジ頭部分が大きいので、ネジを回しやすいのです。FIXタイプのアジャスターと違って、テールピースの下側に大きく飛び出していることもありませんから、もしも駒が倒れたときに、アジャスターで表板を突き破ってしまうという最悪の事態が起きる可能性が少なくなるというのもメリットでしょう。

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