マイスターのQ&A
ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗
Q:チェロのヴォルフキラーはどこに付けたらよいのですか?また、悪影響は無いのですか?
A:ほとんどの方は、ヴォルフ音の酷い弦に装着するものと思いこんでいます。しかし、実際には決まりがあるわけではないのです。その理由は以下に述べます。答えから先に申しますと、「ヴォルフキラーの正しい位置」は、「好影響と悪影響を考えた上で、納得のいく所」です。これは色々な箇所に装着して、実際に試すしかありません。
- ヴォルフキラーの原理
- ヴォルフキラーの原理を物理学的にいえば、「楽器の音響特性に変化を与える事」です。「振動特性に変化を与える」と言った方が分かりやすいかもしれません。するとヴォルフ音の原因となっている周波数モードにも変化が現れて、弦との唸りが緩和されて、結果的にヴォルフ音が目立たなくなるのです。もちろん場合によってはヴォルフ音が逆に酷くなってしまうこともあり得ますので注意が必要です。
楽器の音響特性は、理論的な意味からいえば、楽器にたった一つの埃が付いただけでも変化するはずです(もっとも、この程度では人間の耳には全く判別は付きませんが)。事実、テールピースやエンドピンなどの部品を換えると、音も変化するというのは、これと全く同じ原理によって起こっているのです。
事実、ヴォルフキラーの中には、弦に装着するタイプではなく、表板に振動吸収材(または重り)を直に張り付けるタイプのものもあります。一見したところ、一般に知られているヴォルフキラーとは全く別物のように思えるかもしれませんが、基本原理的には全く同じなのです。
- ヴォルフキラーの位置
- さてご質問の答えですが、ヴォルフキラーはどこに付けるべきという決まりはありません。大げさな事を言えば、結果が良ければ、たとえペグに装着しようと、エンドピンの棒に装着しようとかまわないのです(現実的には、物理的に装着できませんが)。従って、先入観にとらわれずに、ヴォルフキラーを色々な弦に装着してみて、実際に効果のある位置を探し出すべきです。また、装着する微妙な位置によっても音は変化します。
- ヴォルフキラーの副作用
- ヴォルフキラーを装着するためには、その副作用も理解しなければなりません。
ヴォルフキラーの原理は先でも説明しましたように、楽器の音響特性を変化させることによって、2次的にヴォルフ音にも変化を与えるというものです。すなわちヴォルフ音だけを理想的に操作できるわけではないのです。ほとんどの場合、他の音域の音にも影響を与えてしまいます。大体は、音量感が減り、また音が丸くなってしまう傾向にあります。
このようにヴォルフキラーを付けることは、その副作用も受け入れなければならないという覚悟も必要なのです。従って、「ヴォルフ音の改善」と、「その他の音の変化」を天秤に掛けて、どのようにするのが最も良いのかを常に考えるべきでしょう。ヴォルフキラーを装着してヴォルフ音が改善されるメリットよりも、その他の音域の音が変わってしまうデメリットの方が大きいのならば、ヴォルフキラーを付けるべきではありません。
楽器とつきあう上で先入観にとらわれることは一番いけません。楽器は人間と同じように、全ての楽器が全て異なる性格を持っているので、一言二言で話が済むものではないからです。
ヴォルフキラーの装着の方法だけでも、各楽器の音色に対する装着方法は無限に存在します。「ヴォルフキラーの装着」についてだけでも、これほど奥が深いものなのです。
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