オーベルト駒について
Jane DornnerがAubert駒工場で生産の方法を探る
翻訳 佐々木朗、三苫由木子
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私がオーベルトの駒工場を訪れた時、その工場は丁度、ミレクールの工場地帯の中にある新しい場所に移転していたところであった。私は以前の工場の方へ誤って案内された。それは郊外にある古い家で、Jeandel
オーベルト夫人の住んでいるところである。そこはジャンヌ・ダルクが名を上げたという丘からそう遠くはない。そしてそこには「Aubert
a Mirecourt(ミレクールのオーベルト)」という長円形の有名なスタンプの模写が戸口の上にあり、鳥達にヴァイオリンを弾いている白い漆喰のパリの天使が庭においてある。そして木でできた襖の倉庫は、ここがまさにその場所である事を教えてくれる。私は頭の中で、かつて人々が、床に割れた漆喰と木の切りくずのある旧式のストーブの回りに集まり、仕事をしていたのだろうと想像した。しかし現在のそのさまは全く違っていた。オーベルト工場はミレクールの工場地帯にあって、長く簡素で窓がない建物である。しみが全く見あたらないほど清潔で明るい塗装で、風通しの良い建物なのだ。働いている人は様々で、技術的に明らかに熟練した人もいれば、若
い見習いの人もいて女性も男性もいる。
以前私がヴァイオリン作りの商売に関して、この小さなフランスの町の過去と現在という題で大ざっぱに書いた様に、この二つの工場の違いは、ミレクールで起こっている変化を象徴している。19世紀の終わりから20世紀初めにかけて栄えた全ての工場にとって、オーベルトはその伝統を完全に守りながら、近代化を大いに取り入れた最初の人であった。オーベルトの駒は世界的に有名で、その名は100年以上、優良という意味にもなっている。その仕事場は1865年にEmile
Aubertによって建てられた。彼は異なった形と様式をたくさん実験し、彼の知識を息子に教えた。そして息子はわずか2〜3年後にはその仕事を受け継いだ。その事業はその後二度、女性の家系に受け継がれてLouis
Jeandel-Aubertへと伝えられた。彼は1922年にAlain
Moinerに売り、その契約がサインされた3ヵ月後に没した。このオーベルトが駒を今日の音響学の水準に持ってきたのだ。彼は最も良い形と最適な穴のサイズの研究に10年の歳月をかけた。そして彼は木が良く共鳴するように、木を強化させる秘密の方法を60年もかけて開発したのだ。今ではAlain
Moinierと職長だけがその秘密をしっている。
Alain Moinierは工場の近代化を進めたが、機械の増加が質の低下をまねき、彼がオーベルトと同じくらいの高い品質を保つのにたいへん苦労しているという事は、誰も考えなかった。あなた方が生産過程における品質管理の検問所を全部見れば、彼を信じるようになるだろう。駒として作られ、できあがった物のうち35%だけが「オーベルト」の焼き印を押される。私は不合格の物を入れるビンの中に、とるに足らないほどの欠点を持った1つの駒を見た。それは一部を薄くしたり、切ったりして簡単に取り除かれるような4番目の弦の端にある傷である。この工場はヴァイオリン族の全てのサイズの駒を、一日あたり1600個生産することができる。次の年度には日産3000個を目指しているのだ。それは、多くのヴァイオリン製作者と修理を職業としている人々を維持するのに十分な数である。
理想的なオーベルトの駒はユーゴスラヴィアのボスニア地方の楓で作られる。きっちり垂直で木質が決まっているという条件のために、木は200年から400年ほどたったもので5〜8mの高さの部分でなければならない。駒に十分なほどの堅さの所は、木の外側のみの所であり、内側は古すぎるし、使うのには柔らかすぎる。Moinierは材木を選びに、1年に3回ほどユーゴスラヴィアへ行き、そしておよそ1台分の荷(200m3)が駒になるために彼の工場へ輸入されている。ミレクールにおいてこの地方へ行くのは彼だけであり、リュート製作者が必要とする物とまさに同じ木の選択をするので、彼はいつもヴァイオリン製作者に売れるような、乾燥させた特別の仕入品を輸入し始めている。"Super
Luxe"の駒は、スズカケの木(プラタナス)でできている。それが良い木材というわけではなく、それを好む製作者がいるからである。それはより柔らかくて、よりたやすく振動するので、コントラバスの駒に向いている木として一般的に好まれている。木は二度乾燥させられる。切断されて大体5年間は自然に乾かされる。 (小さい楽器はもう少し短くて良い。)それから色を付け、堅くし秘密の方法で処理されてから それが使われるまでの6ヵ月間手をつけないでいる。作り方の主な成分となるのは生産品ばかりではなくてその使われ方、すなわち何の木が選ばれたか、どのくらいの間薬品処理されたかを理解し使われる部分が何であるかを経験によって知る事だと、Moinierは言っている。駒は薬品処理されて売られたのと、そうでない物がある。日本では薬品処理されていない木の明るい色が好まれている。しかしながらMoinierは、薬品処理されていない駒を9ヵ月から1年前に買った人にそれが本物のオーベルトの駒かどうかを検査するようにと忠告している。ブーベンロイテ(Bubenreuth)の製造業者はまったく同一の銘柄の印でもってオーベルトの駒を偽造している。これらは好運な事に質的に劣っていて訴訟中であり、オーベルトは輸出された駒の商品全ての真実性の証明書を出している。駒の立証性を検査したいと思うヴァイオリン製作者は、ミレクールの工場に見本を送ると良い。駒の質はその"mallie"による。フランス語なので私たちには正確な同義語がない。"grain(木目にたとえるべき性質、特徴)"は最も近い。しかし重要なのは年輪の密度だけではなく(理想は駒にまっすぐに横切っているもの)、また木髄の放射線状の外観も重要なのだ(駒の下に向かって走っている斑点)。オーベルトの蔵書にはmallieを"mesh(網状組織)"と訳している。もしあなた方の考えたことが鎖帷子を連結する事であったなら訂正しなさい。mallieは音が放射線を通って下の共鳴板へ伝わるので、駒の核心なのだ。
現在工場は18人の職人がいる。3人は切断と乾燥室で働き、3人は色々な場所で検査し、1人は乾燥された材木から薄片を切り、1人は完成された駒に焼き印を押し、1人はチェロの駒を専門とし、1人はコントラバスを専門とし、残りの人は色々な切断の仕事のために作られた9つの機械の仕事につく。全員が全ての技術の場所を学ぶ見習いの期間を少なくとも1年はやっている。これは伝統的な事業であるのでオーベルトの工場は学校の卒業生を3ヵ月の契約で仕込む事を奨励している。そしてそれは新しい職員のためにいくらかの政府援助金とロレーヌ市からの補助金を受ける。そこにいる間、彼らは2〜3の作業過程を専攻する傾向にあるので、もし病気になる人がいればいつでも援助がある。労働者達は出来高払いなどで雇われていない(彼らはMidlandsのPotterryでの同じ仕事を好む。)なぜかと言うとその仕事は早さよりもむしろ精神の集中力と、思考力を要求されるからである。
1000以上もの基本的な形の変形があるので、仕事の流れはそれぞれの変化の初めの段階から統制されている。私が工場を訪れた日に、4/4ヴァイオリンの駒が下記に要約された過程に沿って作られていた。乾燥させられた木は帯状の鋸で薄く切られる。最も適したヴァイオリン族の一部に比例して大まかな大きさにされる。それぞれの薄片はそれから初めの品質の検査を通過する。そこには3つの主な検問所がある。しかし次の生産過程へ送り出すのに明らかに価値のない物は誰での捨てるだろう。1人の少女が4つの大きな籠に囲まれて工場の1階の正面の机に座っている。彼女はそれぞれの薄片を熟練した目で検査する。そして3つの品質に分類する。一番良いのは年輪が詰まっていてその中に波紋がない物である("de
Luxe"の型になる運命にある)。およそ半分の薄片はこの時点で使用できない物として捨てられる。残った薄片はそれから工作機械の熟練工の所へ行く。その最初の段階は、工業的な型の溝ほり用機械の上で基本的な型に荒ごしらえされる。その機械は真下に型板を持ち鋭利な刃がその回りに進んでいくようになっている。それから2つの長円形の穴が中心部に開けられ、鋭利な刃がその2つを結ぶ曲線を作り出す。その駒達はそれから第二の品質検問所を通り、選ばれると切断機の刃でてっぺんの曲線を切られる。横の穴は中心部と同じようにして穴を開けられる(1人の操作者は1分間に8つの駒を開けることができる)。最後に足が切られ、全体を薄くされ、計られ、手によって仕上げられる。その駒は横がやすりをかけられるまでに、14もの段階を通り過ぎる。この段階のみであるならば、あなたはそのmallieが完全であるかどうかを見ることができるであろう。もしそれがちょっとした様相だったり、波打っているかまたは何か他の欠点があったりしたなら、それはこの時点で捨てられる。残りの駒はそれから1つ1つ仕上げられる。そして何らかの装飾、E線の部分に接合される台として象牙質、黒檀、はめ込み細工の様な物が加えられる。それらの駒はそれから他のが仕上げられている包装室へと運ばれて、そこで彼らはMoinier夫人の注意深い目の下で最後の検査を受ける。彼女はそれがオーベルトの銘柄をつけて工場から送り出される前に、1つ1つの駒の全部を分類し格付けする。もし彼女が基準が保持されていないと思えば、それは不合格品のビンに入れられる。これらの不合格品の中には魅力的な状差しに作られる物もあり、その部門は1/2ヴァイオリンからコントラバスまでの7つの駒からなっている。残りは薪になる。
基本的な駒から1000もの変形があるその数は読者を驚かすかも知れない。計算の苦手な人には難しいかも知れない。ヴァイオリンの駒は7つの大きさに分けられる。その中心部は高い所かまたは低い所に切られる(これで14種類)。次に大きな寸法の駒において足の高さは、高いか低いか中位にされる(これで26種類)。これら各々は、完全に仕上がっているか整備工へ行くかに分かれる(これで52種類)。それらは加工されているか、されていないかに分かれる(これで104種類)。"Aubert"、"Aubert
a Mirecourt"と"De Luxe"の3種の品質がある。それに加えて"Super-Luxe"の型があり、プラタナスから作られていて加工されていない。 (104×5+52=364種類)初めの2つは調整できる足がついていたり、ついていなかったりで合計何種類かを調べるのは全く不可能だ(もう計算は困難)。確実な型はE線を強くするために象牙質や黒檀を入れられる。他の楽器についても同じ事が言える。ヴィオラの駒に5種類の大きさ。チェロに5種類。コントラバスに4種類(5弦バスがあるので2倍する)。ベルギー型のを加えるとすればより大きな楽器が2種類ある。バロック式の駒は、現在のところ生産されていないが、注文があれば作られる。連結式の脚のついた駒(アメリカ人のJacruesによって発明された)は特許権が満期になってアメリカの市場にたくさん作られるようになってきた時に、生産されるようになった。
工場の廊下には色々な駒の陳列品がある。中には19世紀の実験的な型を示す物もあった。標準ヴァイオリンの駒の重さが2.35g。12sの圧力に耐える。チェロの駒は25sで、コントラバスは100sの圧力に耐える。中心を開ける事は、第2と第3の弦の音をソフトにし、両端のくぼみを開ける事は第1と第4の弦をソフトにする。
世界中の取引先と共に、オーベルトは駒の生産をすばらしい芸術にしている。しかし私がそこを訪れたとき、工場の半分しか占められていなかった。残りの半分は糸巻の大規模な生産のためであり、その上オーベルトのテールピースを生産する長期の計画もある。黒檀と紫檀は日除けの下で乾かされていて、3つの旋盤は駒の溝堀用の機械の反対側に使用されずに置かれていた。糸巻は駒と同様に同じ3種類の品質に作られ、合計9つある。もしあなたが"De
Luxe"の駒を持っているなら、あなたはそれと合わせるために"De
Luxe"の糸巻をそろえる事ができる。これらの糸巻は、てっぺんに木と対照的なリングを付けた黒檀や紫檀や柘植(つげ)材から作られる。
3つの図案があり、1つはオーベルトのために特別に図案化されたものだ。たくさんの注文がある取引先は、彼らの個々の明細事項にそって糸巻を作ってもらえる。オーベルトがより多くの範囲のヴァイオリンの付属品の生産を広げている事は何の不思議もない事である。生産品の質と同様に、市場向けの商品と公的な関係が重要な今の世の中において、種々の製品を生産しようという意識が生まれてくるのだ。オーベルトの名前は品質の優良印であり、その焼き印も名声なのである。