マイスターのQ&A
ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗
Q:楽器の湿度対策を教えてください。
A:梅雨時など、湿度の高い所に楽器を長期間保管しておくと、楽器のニカワの剥がれ、カビ、変形、金属のサビなどが起きる場合があります。特にカビは、一旦着いてしまうと何度取り去っても再び生えてくるので、最初にカビが生えないようにすることが大切です。
楽器の防湿対策は幾つか考えられるのですが、まずは一般的(現実的)な方法から述べることにします。
- 普段の演奏
- 楽器にとって一番大切なことは、楽器を頻繁に演奏することです。その頻度は、1週間に1、2度も弾けば十分でしょう。このような演奏によって、楽器内部の空気は入れ替わり、極端な湿度の上昇を抑えることができます。また、このような定期的な演奏は防湿の面からだけではなく、楽器の虫食い、弦切れなどに対しても大きな効果を与えます。
「定期的な演奏」こそが、楽器保護における最も基本的で、大切な方法なのです。
- 演奏後の乾拭き
- 演奏が終わった後の「乾拭き」も重要です。これをきちんと行うことによって、演奏中に付いた汗と松ヤニをふき取ります。「乾拭き」というと、大した効果がないように思う方も多いのですが、毎回丁寧に拭き取れば(強くという意味ではありません)、楽器の汚れはほとんど付かないものです。磨き薬品、油などは使わなくても、乾拭きだけでも楽器は汚れるものではありません。
大切なのは、乾拭き用の布を正しく選択することです。この内容については「Q:演奏後の楽器の手入れはどうやったらよいのでしょうか?」に書かれていますから、そちらを見てください。
- 市販乾燥剤の使用
- よく楽器ケースの中に乾燥剤を入れている方も多く見かけます。しかし、これもほとんどの場合無意味です。それどころか、楽器ケース内の重要なスペースを占有し、悪影響にさえなる場合も多いのです。この事については「Q:ケースに乾燥剤を入れた方がよいのでしょうか?」を参考にしてください。
- 埃をつけない
- 時々、中途半端な知識を得た人が、楽器をケースから出して部屋の中に吊して置いたりしていることがあります。これは一見楽器のために良く思えますが、とても危険です。というのは、楽器は埃によって大きな影響を受けてしまうからです。埃は想像以上に湿気を吸ってしまい、がっきをいためます。これはニスへも悪影響を与えてしまうのです。また、部屋の中には、我々の考えている以上に油分、たばこのヤニなども浮遊しています。これらも楽器には良くありません。
その他の危険性としては、室内の急激な環境の変化もあげられます。空気が自由に循環しているということは、逆に言えば、悪影響も受けやすいということなのです。また、楽器をケースから出しておくことは、不意の破壊という意味からも不安です。
- 防湿庫の使用
- 普段使わないスペア楽器を長期間保管しておく場合や、または長期間演奏をしない場合などには、防湿庫がお勧めです。私はこの防湿庫に、カメラ用のものを使っています。具体的な製品名は「ドライキャビ」という名前で、ヴァイオリンならば4本を収納することができます。価格は、ヨドバシカメラで購入したのですが、10数万円だったように記憶しています。私はこれによって、楽器だけではなく弦や金属部品の品質管理も行っています。
- ただし、この防湿庫を使用するにあたって注意するべきことがありますので、ぜひ参考にしてください。
- ・湿度調整
- この防湿庫はカメラ用に設計されています。従って、普通の使い方をすると、湿度が50%を切ってしまうのです。これは楽器のためには若干低すぎます。楽器の場合には60%弱くらいがよいでしょう。この調整のために、私は調整ダイヤルを最弱にし、そして冬季の乾燥期にはさらに電源を抜くようにしています。
このような方法によって、防湿庫の内部湿度は、常に60%弱の値を保っています。
- ・棚の上にビニールシートを敷く
- この防湿庫「ドライキャビ」の棚には、ビロードのような布が張られています。最初の内、私はこの方が楽器の保護になって良いだろうと思っていたので、この布の上に直接楽器を置いていました。しかし、その色が楽器のニスに入り込んでしまったのです。
現在はその他なの上に、厚さ1.5〜2.0mm位のビニールシートを敷き、その上に楽器を置いています。これによって、楽器のニスが傷んでしまうこともなくなりました。
- ・出し入れの注意
- カメラ用の防湿庫ということもあり、楽器の出し入れは不自由です(扉の中央に柱があります)。従って、細心の注意を払わなければ楽器に傷を付けてしまいます。これでは何のために防湿庫を導入したのかが分からなくなります。
このように注意すべきことも多いのですが、長期間楽器を保管しておく目的においては、防湿庫は最高と考えられます。当然、埃などの付着も防ぐことができます。
一般の方でしたら、余ったスペースにカメラ、ビデオカメラ、ネガフィルムなどを保管して置いてもよいですね。10数万円は高いですが、そのような多目的意味からすると購入しても損はないものと思います。
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