ニス磨き工程と表面の状態
2013年5月23日 ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗
ニスの表面処理の2つの方法
耐水紙ヤスリで表面を平に削っていく技法
ニスの種類がアルコールニスなのか、オイルニスなのか、または個々のニスの硬さ、またはニス塗り作業の技法によっても違ってくるのですが、基本的にニス塗り作業を複数回行っていると、ニスの表面にはハケムラなどの凹凸ができてしまいます。そこで、耐水紙ヤスリでニスの表面を平に削っていき、最後にピカピカになるように磨き上げるが、一般的な「ニス磨き」工程です。
この耐水紙ヤスリで削るニス磨き技法の特徴は、ニス表面にできてしまった大きな凸凹を平に仕上げやすい点にあります。欠点としては、ミクロの視点で観察したときに、紙ヤスリの傷が残り、きれいなピカピカの艶が出にくいことです。塗りっぱなし技法
もう一方のニスの表面処理の方法は、紙ヤスリで表面を平らに仕上げた後、最後にニスを塗って「塗りっぱなし」にする表面処理方法です。細かな紙ヤスリの傷等を最後の一塗りのニスで埋めてしまうのです。この処理方法の特徴は、ミクロ的に見ると表面がとても滑らかで細かな傷が無くなる点です。しかし欠点もあり、大きな視線で見るとハケムラが目立ちやすいのです。また、1~2年経過したときにニス層の体積が縮み、内部に含まれていた小さなゴミなどの粒子がブツブツと浮き出てくるのが特徴でもあります。どちらの技法も一長一短で、どちらかが優れているというわけではありません。
ニス磨き工程と表面の状態
ヴァイオリンの側板にニスを塗り、ニス磨きの各工程を再現してみました。そしてその表面の状態を、500倍率で観察してみました。
左から、
1. ニスを塗りっぱなしにして削っていない状態
2. #400粒子の耐水紙ヤスリをかけた状態
3. さらに#800粒子の耐水紙ヤスリをかけた状態
4. さらに#1200粒子の耐水紙ヤスリをかけた状態
5. さらに#1500粒子の耐水紙ヤスリをかけた状態
6. 磨き粉を使って仕上げ前処理をした状態
7. ごく薄いアルコールで表面を微妙に溶かして磨き上げるポリーレン作業をした状態、 です。
写真の上は普通に見る状態で撮影しました。写真の下は同じ物を、光を斜めから当ててニスの表面の具合が判別しやすいように撮影したものです。
ニス表面の状態
「塗りっぱなし」の表面
上写真の一番左側の部分を500倍率で拡大した、ニスの表面の状態です。ニスの表面はピカピカです。ちなみに写真に写っているのは木材の杢の部分です(写真の補足:撮影時のフォーカスがニスの表面ではなく、ニス深層側に合ってしまいました。木材の杢がはっきり写っているのはそのためで、特別透明度が高いからというわけではありません)。
この写真には入っていませんが、巨大な粒子(ゴミ)が所々に点在していますが、ニスの表面自体はとても滑らかです。ニスは「凸凹しているけれど、表面はピカピカ」という表現があっていると思います。
#400粒子の耐水紙ヤスリをかけた状態
ニス表面に縦横の溝が入っています。#400粒子の耐水紙ヤスリで削った事により、ニスの表面には大きな傷が付いてしまいましたが、一方でニスの表面に付着している大きなゴミや、ニス自体の大きな凹凸(ハケむら)なども平に削り落としています。ちなみに黄色い部分はまだ紙ヤスリがあたっていない、「塗りっぱなし」状態のニス表面です。
#800粒子の耐水紙ヤスリをかけた状態
#400耐水紙ヤスリをかけた後、その上から#800の紙ヤスリをかけた状態です。所々に#400紙ヤスリで削ったときに出来た大きな溝が見受けられますが、#800の紙ヤスリをかけたことでニス表面が平均化されました。
ちなみに表面に傷が付いて、ニスの透明度が全く無くなってしまったように感じるかもしれませんが、これは顕微鏡の照明の当て方を拡散にして表面の傷の状態を判りやすく撮影しているからです。決してニスの透明度がゼロになったわけではありません。
#1200粒子の耐水紙ヤスリをかけた状態
さらに#1200の耐水ペーパーをかけることで、ニスの表面はより平になってきています。この状態になると、ニスの大きな凹凸(ハケむら)や大きなゴミ粒子は削り落とされて存在しません。
#1500粒子の耐水紙ヤスリをかけた状態
ここまで来ると、その変化は微妙ではありますが、表面の平滑度はさらに増しています。
磨き粉を使って仕上げ前処理をした状態
先の作業で粗い紙ヤスリをかけたときに付いてしまった大きな傷が所々に見承けられはしますが、磨き粉で磨き上げたためにニスの表面はとても均一に仕上がっています。
ポリーレン作業をして磨き上げた状態
ごく薄いアルコールでニスの表面を微妙に溶かして、磨き上げるポリーレン作業をした状態です。微量のアルコールで表面を擦ることで、ニスの表面に残っていたミクロン単位の微細な山(凸)部分が溶かされて、ニス表面の平滑度はかなり上がっています。斜めから光を当てた場合ピカピカに光り、同時に透明度もアップしました。